言の葉大賞 入選作品
たった一つの言葉
札幌市 武田 倖朋(みほ)
まるで狙い済ましたかの様に、その日を選んで誕生した息子。小さな命を胸に抱き、古から繋がってきた命の奇跡に想いをはせた。。。そんなお彼岸の中日だった。
良く笑い、良く眠る子だったが、首が座らず、生後7カ月で小児神経科を受診した。
診断名も告げずに「普通に育てて」と言った主治医。その言葉は私を自由にさせる為だったのだろう。低緊張乳児で筋力が弱かった息子は1才を過ぎて、やっと一人座りが出来るようになり、「かーちゃん」「ワンワン」と言葉が出始め、一安心かなと思った。
ところがその後、言葉は増えず、いつしか息子から笑顔も声も消えていた。
「自閉症」当時の私はそう思い込み、この先の子育てを覚悟した。夫に伝えると、返ってきたのは「俺の子どもだから」と、彼自身が現実を受け入れる覚悟だった。これで何があっても育てて行けると、私はすぐに前を向いた。
検査を繰り返してわかったのは「聴覚障害」息子が補聴器を装着したのは3才過ぎ。なかなか慣れずに、いつの間にか外してしまう補聴器を草むらや床に這いつくばって探す日が続いた。それでも、補聴器を着けると聞こえる犬の鳴き声に息子は喜び、笑顔と声を取り戻すことができた。
今、息子は小学4年生。カルテにはミラクルと書かれるほど筋力がつき、元気に走り回っている。残念ながら言葉の獲得は進んでおらず、今だに息子はたった一つしか言葉を持たない。
でも、その言葉はこれまでも、これからも私を突き動かすエネルギーの源。まるで私へのごほうびの様に、心に響く。
「あーやん!!」
私を呼ぶその声、いのちの言葉。
紙司 柿本恵都湖 様と。
式次第と記念品の盾と本。