⑫ 長女にお鍋でご飯を炊かせた理由
私は炊飯器を持っていない。
抗がん剤の副作用で、私は冷たいお水に触れる事が出来なくなったため、長女がご飯を研いで炊くと言う役割を担うこととなった。
毎日、毎日ご飯を炊かなくてはいけなくなった長女の為に、炊飯器を買おうかと考えたのだけれど、一瞬で思いとどまった。
考えてみたら、私は家にいる。
付きっ切りで教え、見守ることは出来るのだ。
それに、少しくらい難しいことの方が、仕事としてはやりがいがあるんじゃないかな?
普段のお手伝いとは少し違う今回の任務。
絶対に長女がやらなければいけない重圧。
そうした状況の中で、お友達には出来ない事が自分には出来たら、ちょっと嬉しいだろうし、ちょっと自慢になるだろうと、そう思えた。
炊飯器でピーっと炊かさったご飯は、たいてい上手くいく。
お鍋だと、そう簡単にはいかない。
だからと言って、小学校5年生の子に出来ないほど難しいことではない。
私の判断は正解だった。
何が良かったって、毎日、毎日、長女を褒める事が出来たから!
「美味しい!今日も上手に炊けてるー!!」
長女は誇らしげだった。
そうして、寝る前には私が長女の手にハンドクリームを塗る。
我慢してしまう長女に、そんなスキンシップも出来た。
思わず手が出て、甘やかしてしまいそうな今日この頃。
体が動かないから子育てが出来ない訳ではない。
例え動けなくなくなっても親として見守る事、出来ることはたくさんあるんだと言うことを体感して、いつか誰かに言われた言葉を思い出した。
「死んでも子育ては続く」
長女は一度もいやとは言わずに、毎日毎日、お鍋でご飯を炊いた。