⑪ あの日の電話
初めての抗がん剤。
針を抜いてホッとした頃に副作用はやって来た。ビニール袋を片手に、何度も吐きながら帰宅。
その後、土日の二日間の記憶は、ほとんどない。
とにかく五感の全てが苦しくて、部屋に降り注ぐ日の光も、窓から入り込む風も、自分の肌の匂いも、通り過ぎる車の音さえも辛くて苦しくて、何度も嘔吐を繰り返し、呼吸は荒く涙は止まらず、この副作用がいつまで続くのかわからない恐怖の中でうっすらと目を開けると、知らない誰かが、私の傍に座っていた。
「誰??」
幻覚?
それとも、誰かが私を護りに来てくれたのだろうか。。。
いつの間にか気を失っていた。
どうにか体を起こせたのは、月曜日のこと。
「無理だ。無理。
どんなに我慢しても、どんなに頑張っても、これは無理。
仕方ない。覚悟はしてたけど、こんなに苦しいだなんて思ってなかった。
きっと、みんなだってわかってくれる。」
精神的にも肉体的にも受けたダメージの強さに茫然としていた。
静まり返った自宅で一人、何をすることも出来ずに布団に横たわっていた。
その時、自宅の電話が鳴った。
這うように近づき、受話器を取ると。。。
「みほ、大丈夫? これからご飯持って行くから。お家のこともするからね。」
友人からの電話だった。
彼女の柔らかな声にただただ、泣いた。
お皿にいっぱいのおかずを届けてくれた友人は、洗濯と洗い物をして自分の子ども達が帰る前に自宅へと戻った。
「また明日来るから。」
と。
気を失うほどの治療に少しだけ光が見えて、私はまた泣いた。