⑩ 初めての抗がん剤
いよいよ始まる抗がん剤治療。
肩にリザーバーを埋め込む手術を担当したのは、まだ若いO先生。
手際も良い上、ベテランの様に落ち着いているその雰囲気に安心しきっていた私。
担当の看護師さんは、私がM先生からがん告知を受けた時に傍にいたこともあり、三人でがんの話やら、お互いの家族や子どものことやら何やらおしゃべりしながら、手術はあっと言う間に終わった。
そうして、その傷は小さく、夏に薄着をしても隠れるような配慮がしてあった。
ありがとう、О先生。
翌日から始まった抗がん剤治療。
私の場合、約46時間かけて抗がん剤を打つ。
病院で抜針してから帰宅するスケジュールとなっていた。
いよいよ始まったその時の、得体のしれない液体が体内に入り込んでくる不気味な感覚が今も忘れられない。
それでも初日、二日目とそれほど副作用もなく、様子を見に来た主治医にブイサインを見せたのだが、いつもフランクな主治医が笑わなかった。
「まだわからないからね。」と。
なかなか空っぽにならない抗がん剤。
そうして込み上げてきた吐き気。
「あー、ダメだったかー。やっぱり副作用はあるのか。。。」
終了予定時間を数時間オーバーして真夜中の退院となった。
救急の玄関で父ちゃんの迎えを待つ間にもおう吐を繰り返し、看護師さんからは「産科の方ですか?」と、つわりの妊婦と間違えられる。
36歳。
若いってこういうことか。