児童養護施設での様子
半年間の治療だった。
秋に始まり、寒さへと向かう。
体の細い憲宗は、冬に一人で眠ると朝には体が冷え切っていた。
朝、目が覚めると一目散に長女を探し、力いっぱい抱きついて、冷えた体を温めてもらっていたらしい。
涙なしでは聞くことはできなかったけど、それでも、施設になかなか馴染めない長女は、弟のお世話をすることで自分の役割や居場所を見つけられていたことに、私は嬉しかった。
3人で支えあう。
きっとそうなると信じていたから、誰か一人が足手まといになるなんてことは、特に憲宗がそうなるとは絶対に思わなかったから。
それを現実に知って、やはり嬉しかった。
憲宗に興味を示す施設の子どもたち。
先生たちや施設の子どもたちには、娘たちが通訳となり憲宗のことを伝えた。
入ってはいけない事務所に顔を出しても、憲宗は注意されることはなかったらしい。
男子禁制の女子のお部屋も、憲宗は歓迎されて、時に招待されて遊びに行っていた。
安心して過ごせるようにと「のりむねルール」が浸透していた。
施設で過ごす経験は、この子たちのマイナスにはならないと信じてた。
身内から「可哀そうに」と責められもしたが、そんなことはないと信じてた。
淋しくても、この経験はこの子達を成長させるはずだと。
そして、聞こえない話せない憲宗が、娘たちの支えとなっていたことで、私は憲宗を誇りに思った。
長女に抱きつき、次女の膝に乗り、その肌に触れ安心したのはどちらか一方なんてことはない。
お姉ちゃんがいる。
弟がいる。
お姉ちゃんなしでは、一人闇に閉じ込められてしまうほどの孤独を過ごしていただろう憲宗。
3人で支えあい、乗り越えた。
何一つ不安を抱くことなく預けることができたのは、施設職員の真摯な姿、子どもへの愛情があったから。
憲宗が “出来ないこと” や “困っていること” に気付き、理解し、配慮ができる素晴らしい子どもたち。
差別することなく、見下すこともない。
時に「聞こえないのりくん、すごい!!」とかわいらしい黄色い声(笑)
そんな子どもたちと、見守る職員の方たちのサポートがあったからこその「のりむねルール」。
社会では色々と噂を耳にする児童養護施設。
でも実際、この施設の子どもたちは憲宗とよく関わり、寄り添ってくれた。
愛情は注がれなければ、誰かに注ぐことはできないはず。
今でも憲宗や私を見かけては声をかけ、走り寄って来てくれる。
そんな子どもたちを見て、思う。
施設の子は可哀想なんてことは、絶対にないんだ。と。